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Music People vol.27 水持 邦雄

教師としての仕事を全うするために与えられた手段が、音楽でなくてもよかった


 「吹奏楽男祭り」というイベントを4年前から行っている。
 その名の通り、男子だけによる吹奏楽の演奏会という一風変わった試みである。2013年に開催した第1回は、埼玉県西部地区にある私立男子高校4校(川越東・慶應志木・城北埼玉・立教新座)による小規模な演奏会としてスタートした。たまたま交流をもった近隣の男子校顧問の飲み会の席で、「合同練習をしよう、いっそ発表会にしてしまおう」と、きわめて「男子的」なノリでスタートした会だ。
 昨秋2016年開催の第4回では、参加した男子校は8校に倍増し、共学校の男子たちも参加を希望し、計16校から吹奏楽男子が集まった。日本一ファンキーな吹奏楽指導者として知られる植田薫先生(福井県立武生商業高校)をゲストとしてお迎えし、およそ330名の男たちがステージ狭しと踊り、奏で、歌う、汗臭い合同演奏は壮観だった。二十数年前に吹奏楽部顧問になったときには、想像もしなかった未来だ。音楽はもともと好きだったが、吹奏楽顧問になりたくて教員になったわけではない。
 吹奏楽経験も、音楽の専門教育も受けたことのない自分が、たまたま誰もなり手がいなかったがゆえに顧問となり、まがりなりにも経験を積んでこられたのは、支えてくださった方が周囲にいたからであり、中でも大切な仲間が一緒に「男祭り」を作ってくださる先生方だ。教員である以上、生徒の成長こそが自分の仕事の目標であり、部活動もそれが目標になる。たまたまそれが吹奏楽だったから、その枠を利用して成長の場をつくることを目標としてきた。コンクールしかり、演奏会しかり、日々の活動しかり。


 経験のなさも、吹奏楽的「常識」に縛られていないという意味で、利点になり得ると考えている。吹奏楽的教養の浅さはいかんともしがたいが、それは、仲間との交流でいくらでも補える。顧問を任された以上、音楽の勉強が必要であることは言うまでもないが、大事なのは、自分には足りない部分があるという自覚かもしれない。
 だからこそ、それを補うためにはコミュニケ―ション能力が必要だ。どんな仕事でも、これこそが大事ではないかと今なら思える。

 多くの男子校がそうであるように、本校の部員のほとんどは初心者スタートだ。「吹奏楽とはこういうもの」という固定観念はまったくない。歌も踊りもお芝居も、与えれば嬉々として取り組んでくれる。その結果として、自分を表現するとはどういうことかを、少しでもつかんでほしいという野望を持ちながら働いている。卒業後も、様々な場で楽器を続けているたくさんOBたちがいることが、自分の矜恃だ。
 もちろん、楽器を続けなくてもいい。何かを表現したという経験は必ず糧になっているだろう。「男祭り」という場に集まり、志を同じくする仲間と一体になった音楽体験をしたことも、体の一部にしみついているのではないだろうか。そんな場で知り合った仲間と、将来何かの機会に出会い、一緒に仕事をするようなことになれば、そういう意味でも彼らの人生の礎を部活動がつくっていることになる。

 教師としての仕事を全うするために与えられた手段が、音楽でなくてもよかった。二十数年前に命じられたのが運動部顧問であったなら、おそらく同じくらいの努力をしてきたのだろう。部員にどういう場を与えようかと腐心し続けていただろう。ただ、楽器を奏でる彼らとともに過ごし、一緒に歌ったり喜んだり怒ったり笑ったり泣いたりしている自分をふりかえった時、やはり、それが音楽であったことが存外の幸運だったと思えるのだ。

水持 邦雄【みずもち・くにお】
川越東高等学校吹奏楽部・顧問

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