Music People vol.37 石川 直
好きなものを見据えて、
着実に自分を成長させ続けていけば
最高のものとめぐり合っていけるはず
母によれば、僕は小さなときから音に敏感な子供だったそうです。まだ一歳くらいのころ、父の仕事の関係でフランスに住んでいて、家族でヨーロッパを旅している途中、カテドラルのように音が反響する場所に行くと、声を出してはそれを聞いて楽しんでいたということがあったそうなんです。祖母の家にハーモニカがあって、幼稚園、小学生のころから自分でアニメの音楽を吹いていた記憶があります。NHKの連続テレビ小説や大河ドラマの曲もよく覚えていて、さかのぼっていくらでも歌えたりしましたね。
意識して音楽に取り組むようになったのは、アメリカに渡った14歳のころから。英語がほとんどしゃべれませんから、最初の一、二年は英語を話さなくていい授業を取ろうということで、スポーツ系、美術系、音楽系といろいろある中で、吹奏楽とマーチングバンドが前期と後期で入れ替わる授業を受け始めた、それが音楽との本格的な出会いでした。ユース・オーケストラやジャズ・バンド、ペット・バンドなど、さまざまな活動に参加しましたね。最初に始めた楽器はフルートだったんですが、一年ほど続けていくうち、自分の後ろで演奏している打楽器セクションにひかれていき、マーチングのシーズンで目にしたドラムラインに、かっこいいなと憧れるようになって。二年目に打楽器に切り替え、そこからは、マーチングのパーカッション、ドラムラインの中でも一番の花形であるスネアドラムをやりたいという一心でずっと取り組んでいました。そして、マーチングのスネアドラムを始めて一年ほど経った17歳のころ、『ブラスト!』の前身となるドラム・コーのグループ、『スター・オブ・インディアナ』が出ていた大会を見る機会があって、あれをやってみたいなと。その大会で総合一位だったのが、ドラムも一位を取った『キャバレアーズ』というグループ。僕がそのころ住んでいたところから近い場所が本拠地だったのでオーディションを受けに行ったんですが、最初の一、二年は落ちまして、三年目でやっと合格できて。でも、高いレベルに挑戦していくということで、大きなモチベーションとなりましたね。
大学では、最初は家族の意向等もあり、エンジニアやコンピューター・サイエンス、音楽教育のダブル専攻にしたりしていたんですが、めぐりめぐって、最終的にはパーカッションのミュージック・パフォーマンス専攻で卒業しました。ドラム・コーは三年続けていて、最初の二年は大学と両立させていました。『ブラスト!』メンバーも多く輩出している『ブルー・デビルズ』というグループにも憧れて、そこは本拠地がカリフォルニアと非常に遠かったので、一学期休学して活動したりもしました。日本に戻りたいという気持ちもあり、一年間休学し、各地で指導をして学費を稼いだこともありましたね。
『ブラスト!』を初めて知ったのは1999年のこと。パーカッシブ・アーツ・ソサエティ・インターナショナル・コンベンションという、世界で一番大きい打楽器の祭典があって、そこで開催されるマーチングのスネアドラムの大会で何度か優勝していたのですが、『ブラスト!』のディレクターに出会って名刺を渡されて。大学を卒業するタイミングで、いくつか選択肢があった中で、『ブラスト!』の第二期公演のオーディションを受けることになり、この20年、この作品に携わると同時に、幅広い活動を続けてきました。
最近フィギュアスケートを観ていて、自分がやっているスネアドラムのソロ・パフォーマンスとけっこう共通点を感じるなと思って。3、4分という時間、分数的にも同じくらいですし、音を通した表現であると同時に、スティックワークの技を成功させられるかどうか集中する部分であったり、その技に挑むまでの精神的な気持ちの持って行き方といったあたり、非常に似ているなと思うんです。もともとスネアドラムは競技的な部分もあったりするので、挑む意識、演技をしながら自分の表現したいものをどれだけ表現できるかということと同時に、慎重さや大胆さといったものも必要とされたりするんですよね。トリプルアクセルであるとか四回転ジャンプであるとかを成功させる上では技術とメンタルが必要だけれども、もしかしたら、どちらかというとメンタルの部分の影響が大きいのかなと。僕らがやっている、スティックを投げてちゃんとキャッチできるかどうかということも、その日の自分の筋肉のコンディションでどこまでのテンポで持って行くと崩れないかとか、筋肉のどの部位が疲労しているとだめであるとか、己の身体と心のコンディションのコントロールが必要とされるんですよね。技があって、それをつなぐ表現があってというところで、自分自身の探求という共通点があるのかなと感じています。
『ブラスト!』とのすばらしい出会いによって、僕の人生は大きく変化しました。日本でこのような活動をして生活していけるようになった大きなきっかけとなったこの作品に対し、とてつもない感謝がありますし、幸運だったと思っています。たくさんの仲間と出会い、みんなと交流してきた中で、人生も豊かになり、人間としてもパフォーマーとしてもミュージシャンとしても大きく成長することができた。出会ってからのこの20年はあっという間でしたね。音楽が好きで、自分自身を高めていくことに興味があって、自分の変化、許容範囲が広がっていくことが楽しかった。そして、その成長を『ブラスト!』というショーに還元することで、観客の方々にもエネルギーを感じていただけて、それがさらに自分にもエネルギーを与えてくれる。水が循環するようによいめぐりになっているなと思います。今年の夏の『ブラスト!:ミュージック・オブ・ディズニー』公演は、僕にとってフル出演する最後の公演となりますが、新曲もさらに追加されますし、今まであった場面もさらにバージョン・アップさせ、一層進化したステージをお届けしたいと思っています。
僕たち世代より、若い世代の方たちの方が絶対進化しているわけで、若い皆さんも、どんどん楽しんで、自分がさらに輝くように推し進めていったらいいと思います。チャンスはいくらでもやってくるものだと思うので、根本的には、何を考え、どう続けていくか。運の悪いめぐり合わせで、自己否定をしてしまうマインドを植え付けられてしまうような教育環境におかれている若い方たちも意外と多いと思うんですよ。頭の中に生まれてしまう、自分を抑制してしまう考え方を取っ払っていく習慣を身につけ、自分が恵まれているもの、好きなものを見据えて、着実に自分を成長させ続けていけば、最高のものとめぐり合っていけると思います。今の子供たちが成長するころには、今は存在しないような新しい職種がきっとたくさん生まれてきていると思うんですね。社会貢献であったり、人を幸せにする仕事であったり、そういった仕事は続いていくものだと思うので、自分自身で満足しながらよいことができていると思えれば、職種は何だってかまわないと思うんです。僕自身は、人から何かを奪っていくようなマインドと常に戦っていかなくてはいけないと思っていて、そのためにも心を自由に生きていきたいと思っていて。そういったエネルギーを、僕の演奏や『ブラスト!』のショーから感じ取っていただけたらと思いますし、そう感じ取っていただけるよう、プロセスを大切に、これからも歩んでいきたいですね。『ブラスト!』というショーが登場したことで、日本においても、吹奏楽とエンターテインメントとが結びつくという発想が生まれましたし、受け皿も増えた。若い皆さんにとって、チャンスは確実に増えてきていると思います。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
2019年7月10日(水)~9月16日(月・祝)
全国ツアー開催!
東急シアターオーブ(東京)他
全32会場59公演
公式ホームページ:http://disney.jp/blast
(PC・スマホ共通)
ブラスト!ホームページ:http://blast-tour.jp
(PC・スマホ共通)
演奏曲目
感動あふれるディズニー音楽の数々!
「小さな火を灯せ (トリップ・ア・リトル・ライト・ファンタスティック)」
(映画「メリー・ポピンズ リターンズ」より)
「ひとりぼっちの晩餐会」(『美女と野獣』より)
「サークル・オブ・ライフ」(『ライオン・キング』より)
「アンダー・ザ・シー」(『リトル・マーメイド』より)
「彼こそが海賊」(『パイレーツ・オブ・カリビアン』より)
「メイン・ストリート・エレクトリカル・パレード」 ほか
(※曲目は変更になる場合がございますので、予めご了承下さい。)
ブラスト!:ミュージック・オブ・ディズニー
2019 年公演スケジュール
東京公演:8/20(火)~9/1(日) 東急シアターオーブ(全20 回)
山形公演:7/10(水) シェルターなんようホール(南陽市文化会館) 大ホール
愛知公演:7/13(土)7/14(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
埼玉公演:7/15(月・祝) 大宮ソニックシティ 大ホール
静岡公演:7/18(木) アクトシティ浜松 大ホール
栃木公演:7/20(土) 宇都宮市文化会館 大ホール
茨城公演:7/21(日) ザ・ヒロサワ・シティ会館(茨城県立県民文化センター)大ホール
香川公演:7/23(火) レクザムホール(香川県民ホール) 大ホール
島根公演:7/24(水) 島根県民会館 大ホール
岡山公演:7/25(木) 岡山市民会館
山口公演:7/26(金) 周南市文化会館
広島公演:7/27(土) ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ
広島公演:7/28(日) 広島文化学園HBG ホール
愛媛公演:7/30(火) 松山市民会館 大ホール
群馬公演:8/1(木) ベイシア文化ホール(群馬県民会館) 大ホール
福島公演:8/2(金) いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
宮城公演:8/4(日) 東京エレクトロンホール宮城
千葉公演:8/6(火) 市川市文化会館 大ホール
新潟公演:8/8(木) 新潟テルサ
長野公演:8/9(金) ホクト文化ホール 大ホール
石川公演:8/10(土) 本多の森ホール
京都公演:8/11(日)8/12(月・祝) ロームシアター京都 メインホール
大阪公演:8/14(水)~8/16(金) オリックス劇場
山梨公演:8/18(日) YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)大ホール
神奈川公演:9/2(月) 相模女子大学グリーンホール(相模原市文化会館) 大ホール
兵庫公演:9/4(水) 神戸国際会館 こくさいホール
奈良公演:9/7(土)9/8(日) なら100 年会館 大ホール
長崎公演:9/11(水) 長崎ブリックホール
熊本公演:9/12(木) 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
宮崎公演:9/13(金) 宮崎市民文化ホール
鹿児島公演:9/14(土) 鹿児島市民文化ホール第一
福岡公演:9/15(日)9/16(月・祝) 福岡サンパレス
石川 直【いしかわ・なおき】 15 歳からアメリカでパーカッションを学ぶ。DCI(Drum Corps International) を観て強い刺激を受けドラム・コーの世界に入る。’01年「ブラスト!」ブロードウェイ公演のメンバーに選ばれ、その後、米ツアー、 ジャパンツアーに唯一の日本人パーカショニストとして参加。ジャンルを問わずさまざまな舞台で演奏の場を広げている。 |