現在取扱い楽譜数:ロケット出版2,485件 輸入楽譜73,698件

Music People vol.22 木尾 圭佑

生徒を楽しませるための努力と工夫を惜しまず、ワクワクした気持ちを持つ

私にとって吹奏楽の原風景は、中学1年の時に先輩たちが出場した東関東大会のステージです。自由曲『with heart and voice』を演奏する先輩の姿、曲の持つ雰囲気、顧問の先生の指揮、全てに魅了されました。


高校時代『with heart and voice』を、作曲者のギリングハム氏自身の指揮で演奏するというかけがえのない経験ができました。自分も将来生徒に、一生誇れる素晴らしい体験をさせてあげられるような教師になりたいと思うようにもなりました。

残念ながら中学・高校と、憧れの東関東の舞台に自分が乗ることはできませんでした。楽器もそれほど上達せず、プレイヤーとして演奏することもあまり好きにはなれませんでした。しかし、合奏の音に惹かれ、全体をまとめる指揮者として吹奏楽に関わり続けたいという夢ができました。もともと教師になりたいと考えていたので、「中学校で吹奏楽部の顧問をする」という目標の下、充実した学生生活を送ることができました。
教師になり、初年度は前任の先生方のお陰で、技術面でも運営面でも優秀な生徒ばかりでした。一緒に着任した峯村穂波先生の熱心な指導の下、B部門で神奈川県大会銀賞受賞の成績を残すことができました。


2年目は私の希望でA部門でのコンクールに挑戦することになりました。初めて指揮を振ることになり、意気込んで臨みましたが、思うようにいきません。何時間にも及ぶ合奏練習が生徒にとって苦痛なだけの時間になっているような気がしました。実際に欠席者も増えていきました。
自分にとっては人生を変えてくれたほどの吹奏楽の魅力を、生徒に全く伝えられていない事実が、悔しく、情けなかったです。

本番のステージでは大きなミスも無く演奏できましたが、地区大会「ダメ金」に終わりました。
自分の力不足が原因だと思いましたが、具体的に何が足りなかったのかは分かりませんでした。とにかく勉強しようと思い、同じ地区の学校や、県内のレベルが高い学校、さらに遠いところでは千葉まで、生徒を連れて見学や合同練習に伺い学ばせて頂きました。練習方法を教わり、先生や生徒の動きを見て、さまざまな方法を試し続けました。


3年目。ようやく練習方法や部活動の方針が見え始めたと思っていましたが、コンクールでは地区大会銀賞に終わってしまいました。初任から3年間受け持った生徒たちに、私自身が甘えていたのだと思います。そこで、改めて見学や合同練習を引き受けてくださった先生方の姿や言葉を思い返しました。その時には私が理解しきれずにいたありがたい教えが、いくつも埋まっていたことに気付きました。
吹奏楽部の活動は成長のための手段。いくら技術が向上しても、成長が伴っていなければ何の意味もない。活動を通して学び、楽しみ、努力し、人との関係づくりや自立するということにこそ意味があるのだということ。
「目的は吹奏楽でも音楽でもない。それぞれの成長が無ければ、吹奏楽部の活動には何の意味もないよ」
「どんなに上手くても、周りの人を大切にできなきゃダメだし、ルールを破ったり手を抜いたりするなら、いくら練習しても部活としての向上はないでしょう」
その意味を考えるようになってからは、生徒へうるさいくらいに何度もこうした言葉を伝えています。

また、本番の成功についての捉え方も変わりました。
「どんなに良い演奏をしても、それにおごって、その後の成長に良い影響をもたらさないのなら、本番としては失敗。下手な演奏でも、その後の取り組み次第で成功させることができる。」
プロの演奏家になれば話は違うのでしょうが、中学校の部活動として行っている以上、目指すところはそこではないかと思うようになりました。そう自覚することで私自身の気持ちがすっきりし、生徒の表情も生き生きしだした気がします。

初任から一緒だった3年生が受験勉強のために引退しました。オフシーズンである冬の時期も、ありがたいことに地元から週1回のペースで本番の機会を頂いています。未熟な演奏ながらもたくさんの方に喜んでいただき、幸せな活動を続けられています。

指導者として貫きたい考えを持つことができ、やっとスタートラインに立てたかなと思います。優秀な卒業生たちと、素直で明るい現役生たちへの感謝と愛を忘れずに、歩んで参りたいです。めざすは、さまざまなご指導をくださった先生方、何かと気にかけてくださる市内の先生、お世話になった中学・高校の顧問の先生。
「生徒を楽しませるための努力と工夫を惜しまず、ワクワクした気持ちを持つこと」
指導者としての一から全てを教えてくださり、失敗ばかりの私にどんな時も味方になりフォローしてくれた峯村先生から教わったこの姿勢は、これから先も私の軸です。

受験勉強を終えた3年生が戻ってくる3月の演奏会では、『with heart and voice』を取り上げます。このメンバーでの最後の演奏だから、特別な思い入れのあるこの曲で締めたいと思っています。変拍子や複雑なリズムに苦労しながら、その中で生徒たちと共に、また一つ大きく成長したいと思います。

木尾 圭佑【きお・けいすけ】
神奈川県 川崎市立高津中学校吹奏楽部 顧問

コメントを残す

最近チェックした商品