【新譜紹介】アメリカ、ウインガート・ジョーンズ社より
アメリカ、ウインガート・ジョーンズ社2015年新譜
アメリカ、カンサス・シティーにあるウインガート・ジョーンズ出版社は、かつてクロード・スミスの曲を中心に出版していましたが、現在は元海兵隊軍楽隊隊長だったジョン・ブージョワーを編集者に迎え、活発に新譜を発表しています。 今年の新譜にはコンサート・バンド用11曲、初級中級バンド用22曲が出版され、更に上級用のブージョワー・エディション19曲もカタログに載っていますが。ここではコンサート・バンド用の11曲を紹介しましょう。
- 衝撃波(ジーク)
- 祝祭序曲(ジェンキンス)
- 終わりのない歌(ローリー)
- ダブリン・シティー(アイダム)
- 喜びに溢れた心(ターナー)
- 星の光(ゴーアム)
- 古い聖歌による変奏曲(プレスコット)
- 貢献(ゴーアム)
- 暗い谷間(コペッツ)
- ボニー・アニー・ローリー行進曲行進曲(スーザ)
衝撃波(ジーク)
ジークのオリジナル作品で、タイトルから想像できるように、エネルギッシュな速い曲です。打楽器に導かれて、リズミカルなリズムの上にいろいろな楽器が断片的に加わり、次第に力を増してゆきます。鍵盤楽器のリズムも現れ、同じリズムが繰り返されて積み重ねられていきます。変化も充分です。終わりまで一定のテンポですが、リズムや楽器編成の変化が多彩で面白いです。最後は打楽器の一撃で終わります。グレード3、時間は5分。演奏会のオープニングの曲としても、静かな曲の間に挟んでプログラムに変化と躍動をもたらすように用いても良いです。
祝祭序曲(ジェンキンス)
ダレン・ジェンキンスの作品。ファンファーレから始まる「A-B-A」の3部形式で、ファンファーレも旋律的で、打楽器も充分活躍し親しみやすい曲です。主部の第1主題はホルンが提示し、トランペットが続きます。第2主題は木管楽器が中心。これが繰り返され、ゆっくりした中間部に入ります。ここではオーボエ、フルート、クラリネットのアンサンブルが歌い、フルバンドも加わって高まります。木管中心の静かなアンサンブルも現れ、2回目のクライマックスを作り、速い主部に戻ります。旋律や楽器編成が自然で親しみやすく、自由曲にも向いてます。グレード3、5分30秒。
終わりのない歌(ローリー)
ロバート・ローリー作曲のゆっくりした美しいメロディーを、ランドル・スタンドリッチが編曲した、バンドを歌わせる練習に好適な曲です。ホルンによりしみじみと歌い出され、木管に引き継がれ、親しみやすい旋律が続き、心に響きます。転調も巧みで魅力的で、盛り上がりも充分。グレード3、3分58秒。終わりのアルト・サックスのソロも大変印象的です。
ダブリン・シティー(アイダム)
ポーター・アイダムのオリジナルですが、タイトルのようにアイルランドの町を画いている曲です。冒頭からアイルランドのドラムのリズムで始まり、5音階のメロディーがはじまり、舞曲風なリズムへと変わっていく楽しい曲。打楽器も活躍しテンポを速めて終わります。民族的な特徴がよく表われた民謡の接続曲で、コンサートのプログラムに喜ばれるでしょう。アイルランド色の強い珍しい作品でお薦めです。グレード4、3分10秒。
喜びに溢れた心(ターナー)
ジェス・ターナーの作曲で、ナショナル・バンド協会の作曲賞入賞曲。緩・急・緩の3部形式です。木管楽器を中心にゆっくり静かに歌い出され、フルートのソロも加わります。充分に美しく魅力的。中間部は一変してドラムやタンバリンに導かれて、南北戦争時代のファイフのメロディーが現れ、他の楽器も加わって、舞曲風に展開して高まります。クライマックスはコラール風です。やがてフルートのソロで静まり、第3部に入り、再びゆっくりした静かな音楽となり消えてゆきます。グレード3、5分18秒。
星の光(ゴーアム)
デイヴィッド・ゴーアム作曲の序曲です。短い前奏に続いて速い主部に入り、軽快に進み、中間部はゆっくりしていくつかの楽器のソロに引き継がれ、木管やホルンが活躍する主部となります。再び速い第1部に戻って終わります。終わり方が断片的で風変りです。グレード3、5分18秒。
古い聖歌による変奏曲(プレスコット)
ジョン・プレスコットの作品。中世の『神秘の予言』という聖歌による変奏曲です。ゆっくりと開始され、すぐに聖歌の主題が木管楽器で提示され、ホルン等の金管が飾ります。美しく魅力的な提示部です。テンポを速めて変奏がはじまります。変奏は木管を中心とする音階的な変奏曲で、ユーフォニアムのソロによる動きも聴かれます。低音楽器の動きによる変奏も現れ、盛り上がっていき、テンポを緩めて最後の変奏に入り、金管楽器の華やかな響きで曲を閉じます。グレード3で、5分50秒。
貢献(ゴーアム)
デイヴィッド・ゴーアムの作品。ゆっくりした曲で、バンドの父兄の死を悼んで追憶する曲です。ホルンなどの中音楽器によって静かに歌い出され、次第に盛り上がっていく美しい曲です。グレード3、4分。バンドの表現力、各パートのソロの力などを養うのに好適な曲。特に幅広いクレッシェンドの勉強に良いです。
暗い谷間(コペッツ)
バリー・コペッツの作品。空想の世界のどこかわからない「暗い谷間」を画いた曲です。いくつかの空想的なシーンで構成されています。劇的に開始され、短い序奏を作り、打楽器の響きの中に最初のゆっくりとした、しかし低音楽器による暗く堂々とした旋律が現れます。次にテンポを速め、ティンパニが活躍する激しい部分となります。それが突然止まると、高音の木管楽器によるゆっくりした神秘的な音楽となり、そしてピアノも活躍。最後は打楽器と共に爆発的な不気味な音楽となり、テンポを速めクライマックスを作って終わります。変化があり、自由曲にも面白いです。グレード3、7分10秒。
ボニー・アニー・ローリー行進曲行進曲(スーザ)
スーザのマーチを、ロバート・フォスターが編曲した版です。スーザが1883年にスコットランド民謡の「アニー・ローリー」の旋律を取り入れて作曲した行進曲です。2分の2の軽快な第1マーチ、強奏ですがなだらかさも持つ第2マーチの後トリオに入ります。トリオではすぐにアニー・ローリーの旋律は現れず、導入的な旋律のあと、低音の金管楽器によって有名な旋律が奏せられます。この民謡の後、繰り返しや中奏は無く、イントロに戻って第1、第2マーチを繰り返しトリオ前で終わります。グレード3、2分50秒。
秋山紀夫【あきやま・としお】
前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。