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Music People vol.24 小林 恵子

吹奏楽でしかできない魅力が確実にあるのです

 私は吹奏楽が大好きで究極の吹奏楽マニアを目指しています。でも最初は単なる『吹奏楽コンクールオタク』からのスタートでした。


私が吹奏楽にハマった瞬間
 中学生の時、何となく千葉市立土気中学校の『パリの喜び』をFMラジオで聴きました。冒頭一小節で心を鷲掴みにされ、ラジカセの前で大興奮。同じ中学生でこんなに人の心を動かせるなんて!ボルテージは一気に上がってしまいました。カセットテープに録音したその番組をその後も何度も聴きました。
 高校生になってもオタクぶりは変わりません。全国大会は始発電車に乗って普門館へ向かい、当日券で入場。高校3年間の全国大会のプログラムには予想だの批評もどきだの、恥ずかしい書き込みをたくさんした覚えがあります。


音楽の本質と向き合った瞬間
 当時私はコンクール鑑賞だけをしていたわけではありません。『パリの喜び』を聴いた日から私は部活人間になっていたのです。「同じ中学生なのだから、自分にもできるはずだ」と思ったのです。
 中学最後のコンクール前のこと。初見でも演奏できる曲なのに、先生からは一向にマルがもらえない。指の速いパッセージをさらうといったような作業ではない。音符を表現するということ、良い演奏・良い音楽とは何かを深く考えることができた貴重な時期でした。初めて音楽の本質と向き合い、壁にぶつかった時だったと思います。
 結果は本選には進めなかったものの金賞。その時、なぜか私だけ涙が出ませんでした。「なぜ泣けなかったのだろう、本気じゃなかったのかな」と悩んだりもしました。この理由は数年後に理解できました。勝ち負けではない、自分が何を求めて取り組んできたかが分かったのです。審査員の方が「上手いというより良かった」と講評用紙に書いてくださったことが、何よりも嬉しかったです。

コンクールの価値観が変わった瞬間
 高校、大学とコンクールに出て、参加校を指導して、コンクールとは一体何だろうということを十代なりにいろいろ考えてきました。そのような葛藤の中、私の中で明らかにコンクールに対する価値観がハッキリ変わった瞬間がありました。
 大学4年の秋。合唱の全国大会のステージ上でのこと。ヒナステラ『エレミア哀歌』の途中、ミからレ#に解決するフレーズがありました。そのレ#に入る瞬間、無意識に大量の涙がこぼれました。カデンツ(終止)の感覚を、ステージで初めて身体で感じた瞬間でした。結果は4位でしたが、あのステージでの感覚は忘れることはできません。その時、コンクールに携わる時、何が大切なのかという自分なりの物差しを築くことができたと思います。

 吹奏楽でしか表せない究極の瞬間を求めて28歳で東京佼成ウインドオーケストラ副指揮者に選んで頂き、さらに吹奏楽に深く携わることとなりました。一生懸命吹奏楽を演奏している皆さまを、応援していきたい、吹奏楽という文化をもっともっと掘り下げていきたいという意志が今の私の礎です。
 吹奏楽は歴とした音楽・アンサンブルですが、誕生してまもないジャンルなので、文化としては未知数。でも吹奏楽でしかできない魅力が確実にあるのです!
 昔を懐かしく思い同窓会的に演奏しても、ストレス発散でも、教育的手段としてでも良い。コンクールで勝ちたいという気持ちを無理矢理排除しなくても良い。でも、それだけならもったいない!たった1音でもいいから、究極の音を創ってほしい。皆さまにはその作業を通して、ほんまもんを感じることができるようになっていただきたい。
 私も、吹奏楽の礎を築いてきた名曲たちと、今を一緒に生きる作曲家と奏者の皆さまと、究極の吹奏楽を追求していきたいと思っています。

小林 恵子【こばやし・けいこ】
東京都出身。山梨大学教育学部音楽科卒業。洗足学園音楽大学附属指揮研究所マスターコース修了。
これまでにハルヴィル城オペラ(スイス)の他、国内外のオーケストラを指揮。吹奏楽においては、2004~2006年、東京佼成ウインドオーケストラ副指揮者として研鑽を積み、2007年、ミッドヨーロッパ国際指揮マスタークラス(オーストリア)にて第1位受賞。
国内の吹奏楽団を指揮する他、佼成ウインドとの『吹楽Ⅳ』『エムハチのブラバン!』等のDVD及びCDが発売。また、コロンボウインドオーケストラ(スリランカ初の吹奏楽団)の結成に携わり、2012年より活動。
現在、東京吹奏楽団正指揮者。日本ウインドアンサンブル首席指揮者。洗足学園音楽大学、相愛オーケストラ講師。ヤングかわさきジョイフルバンド(川崎教育委員会)常任指揮者。2011年、在スリランカ日本国大使より表彰。著書『吹奏楽のためのスコア入門』が再版を重ねている。

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