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Music People vol.17 波田野 直彦

演奏で「思い」を届けられた人は感激します

 私は10年ほど前から台湾に行くようになりました。台湾の吹奏楽、マーチングバンドはこの10年で著しい発展をしています。その中で忘れられない1コマがあります。


4~5年前の夏、マーチングバンドと吹奏楽のサマーキャンプに講師として参加した時のことです。米国からDCIのBLUE DEVILSの指導者もいらして、大盛況のキャンプでした。
講習も終わって会場のロビーで参加されていた方々と歓談をしていると、15名ほどの参加生徒さんが楽器を持ってやってきました。どうやら香港から参加しているバンドのメンバーのようです。
「今日はどうもありがとうございました。お礼に先生方のために今ここで演奏します!」とその中の1人が言いました。
まったく予定外のことで驚きました。そして彼らの演奏が始まります。そこは舞台ではなく会場前のロビーです。同行した先生方とあっけにとられながらも、その演奏に聴き入りました。そしてその姿と音楽に、胸に熱いものがこみ上げてきて、私は涙してしまいました。

なんて粋なことをやるのだろう。

演奏は決してうまいわけではありませんでしたが、思いがこちらに伝わってきたのです。演奏後の彼らの美しい瞳が今も忘れられません。


ところで、ご家族やお友達から「お誕生日おめでとう!」のメッセージや、プレゼントが届いたら、誰でもとても幸せな気持ちになりますね。楽器をやっているのなら是非、その楽器で『ハッピーバースディ』を演奏して「おめでとう」の気持ちを伝えてあげましょう。


プロの演奏家の場合、ライブ会場にいらしたお客様の中に、当日お誕生日という方が多々いらっしゃいます。彼らはそんな時もサラッと演奏します。もちろんリハーサルも必要ありません。これは必須のスキルです。彼らは当然拍子やキー、基本的なやり方を知っています。
最もポピュラーのものは3拍子、Fキー。メロディーは「♪ドドレードファーミー」です。2番は「up Tempo」最後は大げさに「rit.」です。


以前私が音楽学校で合奏指導していた時のこと。授業中、「実は今日は私の誕生日なんです。催促して申し訳ないけど、ハッピーバースディをやってよ!」と言いました。それを聞いて困っている生徒さんがたくさんいました。メロディーを間違えてしまう人、キーが分からない人。みんな赤面しながらさらい始めました。ここが狙いでした。
翌年再び同じことをやった時、聴講に来ていた前年の生徒さんたちが余裕で笑っていたのは嬉しかったです。

楽譜があればその楽譜通りにやれば良い。でも楽譜がない場合はどうでしょう?リハーサル無しで暗譜した楽曲を演奏します。そしてその瞬間は突然やってきます。「お誕生日おめでとう!」の気持ちを伝えるとても大切な瞬間に、楽譜がないから、練習してないからと演奏をしないのはもったいないですよね。

『音楽で思いを伝える』


どうぞメモリー(暗譜で演奏すること)に加えてほしいと思います。演奏で「思い」を届けられた人は感激しますよ。これも音楽のひとつの在り方ではないでしょうか。インプットなくしてアウトプットなし。 以上、上から目線でスミマセンでした。

波田野 直彦【はたの・なおひこ】
The Wind Wave音楽監督・玉川学園講師・玉川大学吹奏楽団顧問

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