Music People vol.14 吉川 和孝
「ハート♥full」な演奏を目指して
「みなさん、音楽はハートです!」
師匠は昔と変わらず弟子に語りかけました。私は久しぶりの師匠の言葉に胸が熱くなり、涙がこぼれました。
山本孝先生が東京音楽大学を去ることとなった最後の年である2013年、私は何度も師匠の最後となるコンサートを聴いたり、参加したりしてきました。その中の、第35回東京音楽大学テューバ・ユーフォニアムアンサンブル定期演奏会に現役とOB合同の演奏で参加、その打ち上げでの師匠の言葉でした。
私は現在、北海道旭川凌雲高等学校で吹奏楽の顧問をしております。まもなく凌雲という名前は終了し、2016年度から新しい学校として生まれ変わります。私がこの学校に赴任してもう20年が経とうとしています。赴任当時、待ち構えていた部員は12名。前任の先生が、だらしがなくやる気のない部員を辞めさせて、本気でぶつかってくる部員だけ残していたのです。新1年生を20人ほど勧誘し、25人編成のC編成でコンクールに出場し、全道大会で金賞を受賞。翌年、9人の3年生とA編成に出てみないか?と話し、新1年生をさらに20人近く勧誘、合計43人で旭川地区大会に出場しました。課題曲は「ライジング・サン」、自由曲は「幻想交響曲」。課題曲にとことん取り組む楽しさを味わい、自由曲で果敢に攻めるおもしろさを生徒は感じたようです。以来、凌雲高校はA編成で挑戦することになったのです。翌々年、外部指導者にお世話になってからバンドの音がどんどん変わっていきました。地区は2位で通過し、全道大会では思いもよらず金賞を受賞。課題曲は「マーチ・グリーンフォレスト」、自由曲は「ダフニスとクロエ」でした。
その後、生徒とともに目標にしてきた「全国大会」出場の夢は、未だ達成されておりません。しかし、たくさんの方々にご指導やアドバイスを頂きながらどんどん成長してきた子供たちの姿が目の前にあります。結果が出せないのは自分の指導力不足です。今までの私は音楽を「戦い」ととらえていたかもしれません。どこの演奏よりもスキなく、数学的に構築することのみに頼ってきたかもしれません。結果ばかり気にして正しい部活動をしてこなかったと思います。そう、これまで置き去りにしてきたこと『音楽はハート』、師匠の言葉はドンっと私の心に体当たりしてきたのです。
吹奏楽は高校から始め、それまでピアノも習ったことがなかったので音楽はど素人。家には誰も弾かないアップライトピアノがあったので、小学生や中学生の時には自己流で大好きなアニメの主題歌に超簡単な伴奏をつけて弾いたり、リチャード・クレイダーマンの曲の簡単なところだけをさらってみたりと、遊び半分で触ってはいました。また、フォークギターに熱中した時期もあります。姉が持っていたレコードの中に中島みゆきさんの「うらみます」というアルバムがありました。なぜか私の心にグッときまして、それ以来(現在も)ファンクラブにも入っていたりします。このみゆきさんの曲をはじめとして、さだまさしさんや他のフォークソング、歌謡曲の弾き語りをして仲のよい友人と音楽を楽しんでいました。さかのぼりますが、小学校の頃、ふとクラシック音楽を聴いてみたいと一人でレコード屋に入り、店員さんに薦めてもらったのは「新世界より」。これが自分のクラシックデビューです。最終楽章の心が躍るあの感動は、忘れられません。
心が躍り、感動する。
音楽に興味がわいていた少年時代の純粋さと初心を取り戻したい。純粋に音楽そのものに感動できる、そのような音楽を常に作っていきたい。そして私たちの音楽で多くの人が心を動かしてくださればありがたいと思っています。「ハート♡full」な演奏を目指して、日々子供たちと楽しんでいきたい。それがこれからの私です。
吉川 和孝【よしかわ・かずたか】 北海道旭川凌雲高等学校吹奏楽部顧問 |