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Music People vol.11 高橋 宏樹

感心する音楽より感動する音楽を


 音楽を奏でるときほとんどの人が「お客さんに感動を届けたい」と思って演奏していると思います(そう思って演奏していると信じたいですが・・・)。では感動をお届けする演奏って実際何をすれば良いのでしょうか?

 皆さんは演奏会やコンクールなどで演奏をする時、どんな事を意識して演奏しているでしょうか?指使い?臨時記号?音色?そう言えば何を意識してるんだろう?って人もいるかもしれません。きっと合奏中に「そこ音程合わせて」とか「縦の線合わせて」などと言われたり言ったりしたことがあるでしょう。もちろんこれは音楽を作る上で大切な要素です。ただ音楽は当然これだけで成り立っているものではありません。音程や縦の線というのは目に見える(耳に聴こえる)ものなので指摘しやすいのですが、いわゆる"感情"の部分はこうしたらできるという説明がなかなか難しいのです。でも良い音楽を作るために必要なのはこちらなのではないかと僕は考えます。

 「感心する音楽より感動する音楽を」これは僕が学生だった頃に師匠である小林亜星氏に言われた言葉です。僕は今でも作曲する時や演奏する時はこの言葉を思い返します。

 いわゆる超絶技巧や前に述べた音程や縦の線が完璧な音楽というのは技術的に素晴らしく「おお凄い!」と心動かされます。これが"感心"です。一方、例えば誕生日や結婚式、または離別する時に友達がサプライズで歌を歌ってくれたとしましょう。恐らく完璧なものでは無いかもしれませんが気持ちの伝わる涙が止まらない演奏になります。これが"感動"です。この機械的な部分と人間的な部分、このバランスが音楽には必要なのだと思います。

 現在テンポ感と音程がパーフェクトな歌手がいます。それは「初音ミク」さんです。もし音楽が音程や縦の線があっていることが一番ということであれば今頃歌の世界はヴォーカロイドで溢れているはずです。でもそれがないというのはやはり無意識に人が歌うものを心地良いと感じているからだと思います。感動する音楽というのは技術ではなくこれまでの人生経験での喜怒哀楽によって構成される感情表現です。「楽しい部分はこう吹くと良い」という考え方ではなくこれまでに経験した楽しい思い出を想像しながら演奏してみてください。悲しい部分も同様です。それだけで音そのものが楽しくなったり悲しくなったりするはずです。

 機械的に演奏することはクラシックでは常ですが、これは当時録音機材もなくコンピューターで打ち込みもできなかった時代の話です。その時代にはその曲を伝承するために必要だった方法です。現在は簡単に録音ができます。本物と聴き違うほどの音がコンピューター上で出すことができます。つまり正確で技巧的な演奏であればコンピューターの方がよほど素晴らしい演奏をしてくれるわけです。なら人にしか出来ない音楽を追求してくべきではないでしょうか?感心する音楽より感動する音楽を!!

高橋 宏樹【たかはし・ひろき】作曲家
1979年、東京生まれ、パンスクール・オブ・ミュージックにて映像音楽やポップス理論などを学ぶ。主に吹奏楽曲や管楽アンサンブルの作編曲をしている。その他ポップスの編成やオーケストラの編曲なども手がけている。ピアノやキーボードのサポート、鍵盤ハーモニカなどプレイヤーとしての活動も行っている。シュピール室内合奏団メンバー。ズーラシアンブラス契約作編曲家。

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