秋山紀夫のバンド指導ヒントvol.1

バンドの配列
私が地方にお伺いして講習するとき、モデルバンドに向かって真っ先にお願いすることは、各パートの並び方の変更です。特に人員の少ないバンドでは実に多種多様な配列をしています。それらはいずれもただなんとなく並んでいたり、一見しっかり並んでいるように見えても一番奏者の位置がよくなかったり、他校のマネで理論的な根拠がない場合がほとんどです。
吹奏楽団の配列(Seating Plan)は演奏効果に特に大きな影響があり、並び方次第で演奏が良くも悪くもなります。(特に小編成ほどその弱点をさらけ出しやすい)したがって、私たちは配置の方法を重要な問題として考えるべきなのです。
配置を考える場合、以下の押さえるべき基本事項があります。
(A) 木管と金管の関係
(B) 高音と低音の関係
(C) 金管のベルの向き
(D) 人数と一番奏者の位置
(E) ステージの段やスタジオの広さ
(F) 各楽器間の機能の関係
秋山紀夫オススメの小編成の配列

(A) 吹奏楽の表現の主力は木管にあり、それを色づけるのがダブルリードの楽器やブラスセクションであり、さらに木管の方が金管に比べて音量がない点からも、オーケストラのヴァイオリンと同様に聴衆に近いところに置かなくてはなりません。
(B) 古いオーケストラの配置では第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンを左右に分けていましたが、現在では指揮者から見て左方に高音。右に行くにしたがい、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ダブルベースと音程が低くなるように配置されます。これはオーケストラが大きくなり、ホールのステージも大きくなると、古い並び方では第一ヴァイオリンの後方(左手)と第二ヴァイオリンの後方(右手)が離れてしまい、高音楽器のハーモニーが悪くなるからです。
今日では全世界のオーケストラが新しい配置をとるようになりました。これはステージ上の見た目の効果(第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンが向き合っていると対称の配置となり見かけの上では美しいが、演奏は合いにくい)よりも現実の音の響きの向上を狙ったものです。
この点で同様のことが吹奏楽の配置でも数多く指摘できます。管楽器の高、中、低音をそれぞれ、音のシャープなもの、やわらかいもの、輝かしいものと分類していくと、次第に配置上の必然性が生まれてきます。
(C) ベルの向きから考えるとトランペットやトロンボーンのような前方にベルが向いている楽器は当然音勢が強いものです。そのため、指揮者に近い位置よりも後方の方が他の楽器とよく混ざります。
秋山紀夫オススメの小編成の配列

(D) ステージいっぱいに60 名も80 名も並ぶときは、クラリネットは20 〜30 名ほどになり、セクションとして固まった音を出すことができます。しかし40 名以下のバンドではクラリネットは10 名以下となります。こうなるとかなり力が弱いので、前述のシンフォニックバンドとは違った方法を採らなくてはなりません。各セクションを率いる一番奏者の位置が非常に大切で、彼らがなるべく指揮者の周りに集まり、その力が各パートに波及してパートのすみずみまでわたるように考慮されなくてはなりません。
これは極端な例ですが、第一コルネット奏者と第一トロンボーン奏者が両端に離れて座っている配置をよく見ます。これでは非常に連携が取りにくいでしょう。特に第一コルネット、第一トロンボーン、第一ホルン、第一クラリネット、ソロアルトサクソフォーンの各奏者の位置は互いに音を聴きやすく、また固まった音の出せる位置を選ばないといけません。
(E) コンテストや演奏会の時にはステージの広さや奥行、ひな段との関係も十分に考えないと普段の響きを出すことは難しいでしょう。例えば非常に広いステージで、ピッコロ、フルート、クラリネットが最前列で横一列に並ぶと、左右が広がりすぎて指揮者の視界に入りにくくなります。また、フルートが普段の練習位置よりも指揮者から遠くなって吹きにくくなることもよくあります。放送やTV のスタジオでは、空間の広さやカメラの位置、更にはマイクロフォンの位置によって配置を考えないと響きが大きく変ってしまうことがあります。
(F) 各楽器間の機能の関係です。バンドの指導において、この点に関して何の考えもなく各セクションを取り扱っているように思えることが多々ありますのでここで少し補足いたします。
吹奏楽における編曲や作曲の手法からみて、楽器群の特色を次のように表現することができます。
なだらかな美しいフルート、クラリネット、色彩的なピッコロ、オーボエ、やわらかなサクソフォーン、豊かなユーフォニアムとホルン、輝かしいトランペット( コルネット) とトロンボーン、やわらかく幅広い低音のテューバ(バスーン、ベース・クラリネット)、シャープな打楽器セクション。
これらがバンドの音色の特徴あるカラーを生み出します。さらにこれらはそれぞれ単独で働くのではなく、各楽器が組み合わさって機能的に効果を高めるわけです。また、クラリネットとサックス、クラリネットとユーフォニアム、サックスとコルネット、テナー・サックスとユーフォニアム、バリトン・サックスとユーフォニアム& テューバ、ホルンとトロンボーン、ホルンとクラリネット、ホルンとトランペット、トランペットとトロンボーン、トランペットとユーフォニアム、トロンボーンとユーフォニアム& テューバは編曲において特によく用いられる組合せです。これらの音色はそれぞれが一つの楽器として響いている時とまったく違った音色として混ぜ合わされた絵具のように原色とは違った美しさを表すものです。
例えばホルストの『組曲第一番』の第三楽章のマーチの中間部。(A 以下の)美しいメロディは決してクラリネット単体だけでなく、クラリネットの低音域の美しさとアルトサクソフォーンのやわらかさとフレンチホルンの豊かさ、更にそれと対旋律をなして響くユーフォニアムの幅広い音が統合して生み出すアンサンブルとしての美しさなのです。
このように私たちは各セクションが最適な連携動作ができるように配置を深く考えなくてはいけないわけです。
小編成での録音風景(『究極の吹奏楽~小編成コンクールvol.1』の録音@ 新座市民会館大ホール)
「配列」は、コンサートと同じ響きを収録するために通常配列で臨んだ。
指揮= 佐藤正人 演奏= ブリランテ・ウィンド・オーケストラ

秋山紀夫【あきやま・としお】

前ソニー吹奏楽団常任指揮者。現おおみや市民吹奏楽団音楽ディレクター。(社)日本吹奏楽指導者協会名誉会長、(社)全日本吹奏楽連盟名誉会員、アジア・パシフィック吹奏楽指導者協会名誉会長、WASBE(世界吹奏楽会議)名誉会員、浜松市音楽文化名誉顧問、アメリカン・バンド・マスターズ・アソシエーション名誉会員。ソニー吹奏楽団名誉指揮者。